この春留学からご帰国される予定で、今後日本を拠点に演奏活動を開始される岩倉彩子氏。ベルリンとリューベック、二つの街で二人の先生から学んだことや、そこでの生活、またご自身の音楽感についてインタビューしました。
文化の違いを肌で感じた留学経験
ードイツには何年ほどお住まいでしたか?
岩倉:私は2011年秋からディプロム課程で約3年間ベルリン芸術大学に。約1年ほどの受験期間があり、その後2016年春から2年間リューベック音楽大学のマスター課程におりましたので約6年半ほどドイツに住んでいます。
ードイツに住んで良かった事は?
岩倉:建物、空気、ヨーロッパの人々から文化の違いはすごく肌で感じるものがあり、それは住んでみて初めて体験できることかなと思うので知るという点でそれはとても良かったと思います。あとはコンサートで学生はとても安く世界的なオーケストラやオペラやバレエも聴けるので、それは本当にありがたかったです。よく足を運びました。
ー生活で困ることはありましたか?
岩倉:慣れてしまえばすごく困ることはないですが、より良い生活をするにはドイツ語か少なくとも英語ができることが必須かなと思います。あとそもそもヨーロッパ人の考え方は日本人とは違うことも住んでいてとても感じたので、そのギャップで行き違いがあって困ったことはあります。
作曲家と楽曲へのリスペクト
ー現在の生活について教えて下さい。
岩倉:ドイツでは数人の生徒を持ちながら学生生活と演奏活動を送ってきましたが、現在は留学生活も終え拠点を日本に変える予定です。日本ではソロと室内楽の演奏会を予定している他、生徒も取りつつ、ドイツで学んだことを活かしてレッスンをしていきたいなと考えています。
ークラシック音楽の良さとは?
岩倉:クラシックを繰り返し聴いていて飽きることがないです。いつも新しい発見があります。もちろん気に入る曲とそうでない曲はありますが、それも一期一会です。CDだけでなく生の演奏を聴くのが重要です。
ー好きな曲や作曲家は?
岩倉:正直全ての作曲家に好きな曲とそうでもない曲があります。あえて言うならばシューベルトは弾いている自分でも感情移入してしまう魅力があります。
ー演奏家として、最近どのようなことを感じますか?
岩倉:若い人たちのクラシック離れは世界的に深刻だと思います。それはドイツの師も言っていましたが。最近の若い人はまずベートーヴェンという名前すら知らないということを聞いたので、私にとっては衝撃でした。若い世代にクラシックの良さを伝えていくのは私たちの役目かなと思います。また逆に現代曲に抵抗があるクラシック好きの方にも現代曲の良さも伝えられたらなと思います。
ー演奏家としてのこだわりはありますか?
岩倉:楽譜に忠実に作曲家の意図をよく読み取って、曲に対してリスペクトを持って演奏することです。だいたいの指示は楽譜に書いてありますので、それをいかに正確に読み取れるかが問題ですが。
ーご自身の持つ音楽感や、キャラクターについて教えてください。
岩倉:私はあまりオープンなキャラクターではないと思っていますので、ピアノでもおそらく派手なタイプではないと思います。どちらかというと自分自身との対話が好きなので、そういう曲を弾く時はいいのですが、違う曲の時は別人のように演じるよう努めています。
ーこれからの展望を教えて下さい。
岩倉:ソロも室内楽も関係なく日本ではもちろん、他国でも、少しでもクラシックの良さを伝えられたらいいなと思っています。またオーケストラの一部となって弾くのもとても楽しいのでそういう機会があればいいなと思っています。
二人の師から、異なる視点で共通のことを学んだ
ー留学先の大学を選ぶ際に決め手となった事はありますか?
岩倉:もちろん師事を受けたい先生がいたからです。毎週のレッスンになりますので、そこで自分が本当にアドヴァイスを得たい先生かどうかは一番重要だと思います。またその熱意も先生に伝わりますので、先生と良い関係を持って留学生活が送れるかどうかということはとても大事だと思います。
ー合格した後の準備について教えてください。
岩倉:とにかく書類を揃えることが一番面倒でした。ドイツはなんでもとにかく書類の国ですのでそれがあれば後は大した問題もありません。私は幸運にもピアノを弾ける環境への苦労はなかったのですが、楽器が弾ける家を探すのも大変そうです。学校に入ってしまえばとりあえずは学校で練習はできます。
ー大学の印象はいかがでしたか?
岩倉:ベルリンはとにかく大きくて、みなさん必死な雰囲気が強いです。自分もいつも余裕がない生活でしたが、感化されることも多いので刺激的です。それに比べリューベックは小さい学校なのでアットホームでみなさん忙しいながらも優しい雰囲気がありました。
ー留学先での先生のレッスンについて教えて下さい。
岩倉:私はベルリンではKlaus Hellwig 先生に師事していましたが、先生のレッスンは一つ重要なことを言われると全てが違ってくるような不思議で素晴らしいレッスンでした。でも内容はシビアなのでそれについていくのがとても大変でしたが(笑)人間的にも素晴らしい先生です。リューベックではKonstanze Eickhorst先生で、とても面倒見の良い厳しいけども温かみのある先生で、先生自身が本当に本番での完璧を目指す方なので、ペダルの使い方、指番号の見直し、あらゆるところに工夫をしていかに本番で安全に自分のやりたいことができるかというのを学びました。でも両方の先生とも楽譜に書いてあることは全てやるというのは共通していました。
生活していく上でドイツ語が大してできなくてもなんとかなるのですが、先生がドイツ人だとレッスンでのドイツ語の理解力は必須なので、留学を考えている方は早急にドイツ語だけはしっかりやっておくのをお勧めします。留学してからは実技が大変な上にドイツ語の勉強も重なり時間が取られるのはとてももったいないので。
ーありがとうございました。
日本にご帰国され、演奏家として益々のご活躍を期待される岩倉彩子さん。MU編集部では、今後も岩倉さんの最新情報をお伝えして行く予定です!
岩倉 彩子 (いわくら・さいこ)
公式HP https://www.saikoiwakura.com
2003年第57回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部にて第1位を受賞。
2004年桐朋女子高等学校音楽科へ入学、以降同大学卒業まで玉置善己氏に師事。2005年第59回全日本学生音楽コンクール東京大会高校の部第1位を受賞。
2008年第4回クールシュヴェール国際音楽アカデミーinかさまに参加。かさま音楽賞を受賞し、クシシュトフ・ヤブウォンスキ氏の推薦にて受講生コンサートに出演。また同年桐朋学園大学学内オーディションに合格し、桐朋学園オーケストラ&桐朋アカデミーオーケストラ合同特別演奏会にて、指揮者の秋山和慶氏とベートーヴェンのピアノコンチェルト第1番にて共演。
2009年トモノホールにてデビューリサイタルを開催。また同年サントリーホールデビューコンサート2009レインボウ21、桐朋学園大学プロデュース「Sleepers ─よみがえるピアノ室内楽の祭典─」に出演。同年第3回横浜国際音楽コンクールピアノ部門一般の部、J.S.バッハ賞を受賞。
2011年桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業、並びに卒業演奏会に出演。また読売新聞社主催、第81回新人演奏会に出演。さらに皇居の桃華楽堂にてヴァイオリン首席奏者と共に室内楽での御前演奏の機会を得る。Abendmusik~松村優吾×岩倉彩子 with Paulownia Orchestra of Toho~第1回公演にて指揮者の松村氏と共演、ラヴェルのピアノコンチェルトでソリストを務め、好評を博す。
2011年秋より渡独。2015年までドイツ、ベルリン芸術大学(Universität der Künste Berlin)ディプロム課程にてクラウス・ヘルヴィッヒ氏に師事。2016年よりリューベック音楽大学マスター課程にてコンスタンツェ・アイクホルスト氏に師事。2017年第19回イル・ド・フランス国際ピアノコンクールセミファイナリスト。2018年マスター課程を最優秀成績 (1.0) で卒業。
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